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『希望の資本論』その16

【149ページ】
池上 『資本論』を読むと、実は資本主義によって労働者たちは鍛えられ、能力が開発されていく、あるいはそこで労働者が団結する、そういう組織化する力もついてくるんだということも言っている。資本主義はそういう労働者を育てるというところもあるんですね。資本主義がすべてダメというわけではないということを、実はちゃんと書いてあるんです。

佐藤 それから9年の義務教育、世界基準では大体11年、12年なんですが、それだけの長期間の義務教育がなぜなされるかというと、そういう義務教育で基礎教育をしておかないと、技術革新に対応できないからですよね。要するにOSをもらえるわけなんですよ、この資本主義というシステムに適応できるようにするために。

池上 なるほど。
佐藤 OSを持っていれば、そこに何らかのアプリを入れれば動くようになるわけです。

【152~153ページ】
佐藤 岡崎次郎さんは面白い人で、4億、5億と印税が入ったが、お金を全部使ってしまったと。それで、奥さんと一緒に失踪してしまうんです。~。
それから、国家社会主義者の高畠素之が訳した日本最初の訳を、徳間書店から復刊してもらおうと思っています。文学的センスのある名訳です。彼は戦前、日本で一番最初に『資本論』を訳したのですが、なかなか文学的センスがあるので、訳がいいんですよ。誤訳が多いという人もいるけれど、必ずしもそうではない。この人は『資本論』を訳しているうちに、『資本論』は正しいけれどマルクス主義は間違っている、と思うようになった。そして国家社会主義者になった。どうしてかというと、マルクスは進化論をよく知らない。人間は性悪な存在だから適者生存でやっていくので、この資本主義の論理が適者生存の中に入っていったら大変なことになる。だから最大の暴力装置である国家によって資本を抑えないといけないという主張をした。こういう経緯があるので、左翼系の人は高畠訳を評価しない傾向がある。
(つづく)

『希望の資本論』その15

【143~144ページ】
佐藤 『資本論』を読んだ結果、どんないいことがあるのかというと。資本の論理に巻込まれないためには直接的な人間関係が重要だということがわかるんですよ。『資本論』を読んで資本の論理がわかると、お手伝いをしたら子どもに今日は500円あげるとか、そういうことをしなくなる。
家族の中で金を介在させたらいけないんだという、そういうことが理屈の上でよく理解できるようになってくる。そうすると、直接的な人間関係が大切になってくるわけですよ。合理性とは違うこと、お金には換算できないものがあるんだと言って、たとえば親が家族旅行の重要性を認識できる。

【144ページ】
池上 すべては資本の論理に流れていってしまい、人生も家族も、すべてがお金に換算されてしまうのが資本主義なんだということを『資本論』は描いている。私たちが人間性を失わないようにするには、そのすべてをお金に換算する論理から抜け出る力が必要なんだと。

佐藤 佐藤そうです。だから、そこで恐いのは数字なんですよ。介護保険が導入されました。介護労働を家族だけでやるというのは、これは無理です。ところが一方で、介護保険で点数制になってくると、家事労働や介護が全部お金に換算できるようになります。おばあちゃんを一回お瓜呂に入れるのが、介護保険なら何点、それなら私にもいくらちょうだいというふうになってくる。資本主義がどんどん浸透している中で、そういう考え方は本来の人間のあり方ではないというメッセージを、どうやって伝えればいいのか。そういうところと関係してくると思うんです。
そのためには自分の家の中で、とくに子どもとの関係で、どこか資本の論理とは違うところを意図的に作らなければいけません。
(つづく)

『希望の資本論』その14

【125ページ】
佐藤 何を言いたいのかというと、宇野経済学を別の形で見なければいけないということです。資本主義はそう簡単に壊れない。簡単に壊れないんですが、このシステムには相当問題がある。それは人間をボロボロにする危険性がある。だから、とりあえずうまくつきあっていかなければいけない。
もしかしたら、いつかこのシステムはなくなるかもしれないが、それは近い未来には来ないような感じがする。それでも、資本主義にとらわれないような生き方はできるわけです。池上さんを見ていると、『資本論』の精神が生きていると思います。というのは、経済合理性にあわないことを意図的にやっておられますから。大学の先生とか。

【134ページ】
池上 現代において『資本論』を学ぶことは、いまの資本主義社会を相対化する、これだけがすべてじゃないよ、これはこうやって動いているんだ、そして自分はその中でどういう立ち位置にいて、その資本の運動とどうつきあっていけばいいのかな、と考えるきっかけを与えてくれる。自分が生きている社会を、相対化する力を与えてくれると思うんです。
(つづく)

『希望の資本論』その13

【116~117ページ】
佐藤 浦和高校の応援団の先輩、中学校も私と同じだった人が東京教育大学に行って革マル派に入咳中核派に捕まって殺されてしまった時に、『革命的暴力とは何か?』というこの本が出た。中核派の暴力は「無原則な政治屋どもの殺し」で、革命性がない。しかしわれわれ輩命的に行使する暴力は正しい、という本なんです。自分たちの暴力は正しくて、相手の暴力は間違えていると。

池上 さらに言うと、「この野郎」と言って暴力をふるってはいけないけれど、組織決定に基づいてきちんとやるなら、正しい暴力であると言っています。

佐藤 それから遅れて、今度は革マル派が早稲田大学の中核派の人を殺しちゃったんですよ。その時は、今度は中核派のほうが『内乱期の反革命』(前進社)という本を出して、それは「反革命、革マルの本質」について書き、革マル派を徹底的に解体すれば世の中は良くなるといった論理を立てて、両方が殺しあいの世界に入っていくんですよ。

【120ページ】
佐藤 社青同のオルグの人が、私の行動に問題があると言って京都までシメに来た。その人から、社共統一戦線を取っているんだから、社会党系の社青同は共産党系の民青と握って新左翼系である同志社の学友会や神学部の自治会とはケンカしろと言われて、それは私は嫌だと言いました。
 (つづく)

『希望の資本論』その12

【107ページ】
佐藤 これはブラック企業もそうなんですよ。人間を物として見るということが現在の主流派経済学にも、テロリズムの哲学にもある。それに対してヒューマニズムの回復を強く唱えたのが、ピケティ氏ですね。人間は物ではない。人間は人間なんだと。

【113ページ】
佐藤 『資本論』を読んで、どういう意味があるかと言うと、やはりこの社会の構造の限界がわかる。それと同時に、お金や出世だけにとらわれた人生ではだめだということも見えてきます。逆に、ある程度働かないと生きていけないということがはっきりわかるから、世の中をひねくれた形で見る人間にもならない。
そういう意味で、『資本論』の論理をきちんとおさえていると、私は非常に役に立つと思う。世の中にいくつか役に立つ思想はありますが、『資本論』はそのうちの一つだと思います。
(つづく)

『希望の資本論』その11

【99~100ページ】
佐藤 いずれにしても、安倍政権が狙っているのは何かというと、『資本論』に書いてある通りのもので、システムを維持するために、女性をどう使えるかということなんですね。その結果、いま表れているのは、女性の星みたいにもてはやされている人は「名誉男性」というような扱いになるということです。~。
外務省にキャリアとして入った女性でも、メチャクチャになってしまった人がいます。例えばアルコール依存症です。それが原因で途中退職し、亡くなってしまった。しかし、外務省ではその人のことはすっかり忘れ去られてしまいました。

【102~103ページ】
池上 それから、マルクスも書いていますが、労働力の再生産の費用をどんどん引き下げようといういまの資本の運動があって、そもそも社会的な再生産費自体を下げる働きがある。それこそ吉野家の牛丼で。

佐藤 100円ショップで。

池上 あるいは日高屋のラーメンとか、服はユニクロでと。とりあえず、そういうものを着たり食べたりすることによって、相当安く生活できるようになりました。だからその分、企業は賃金は上げなくてもいいんだよ、ということになる。正規労働者に比べてはるかに給与水準が低い非正規労働者でも、ギリギリ生活できる程度までに、社会的な生活費がこのところずっと引き下げられてきたんだろうと思います。これはマルクスが指摘した通りのことが起きていると思うんですよ。
 (つづく)

『希望の資本論』その10

【80ページ】
それで1848年の『共産党宣言』の時点でモーゼス・ヘスは同じ陣営にいた。ところが70年代になると、ヘスはユダヤ人の国家をパレスチナに建てようとするシオニズム運動の理論家になって、結局そのヘスの流れから鱗ルツルが出てきて、イスラエルの建国につながった。そうすると、マルクスの流れというのは、一つにおいては、マルクス、エンゲルス、レーニン、そしてスターリンという形になって、70数年間、ソビエト体制を作る源泉となったのですが、もう一つの流れというのは、イスラエルの建国につながった。あれだけ小さい国ですが、アメリヵに強い影響を与え、いまだに国際秩序の混乱の原因になる国家を作ったというのも、根っこはマルクスたちなんです。
結局、いまだに思想が社会を動かしているんですよ。どういうフレームを作るかということが非常に重要なんです。
それで困ったことが持ち上がった。いままで、マルクス主義は、階級という切り口で問題を解決しようとしてきたのですが、階級という切り口に共鳴して熱くなる人の数が限られている。だから、ナショナリズム研究で有名なアーネスト・ゲルナーは「郵便の誤配」を強調する。「目覚めろ、立ち上がれ」という郵便を、神様はちょっと勘違いして、階級ではなく民族に届けてしまった、と言ったんです。

* モーゼス・ヘス(1812~1875)
ドイツの社会主義者、哲学者。ボンのユダヤ系家庭に生まれる。「ライン新聞」の創刊に関わるなど、マルクス、エンゲルスらと並んでドイツにおける社会主義の祖と言われる。その後、マルクス、エンゲルスとは別の道を進みシオニズムを主張する。
* テオドール・ヘルツル(1860~1904)
オーストリアのユダヤ人作家。ブダペストに生まれる。政治的シオニズムの祖とされる。1896年、「ユダヤ人国家」を発表、翌年には世界シオニスト会議を開催した。

【84ページ】
佐藤 それ(大量殺人の思想)は、原爆投下の論理にも通じますね。日本は異常なイデオロギーに取りつかれていて、戦争を継続していくだろう。だから、ここで原子爆弾を使えば、本土決戦によって失われるアメリカ兵の命だけではなく、日本人の命も救われる。ゆえに、原爆投下は人道的なんだと。こうした考え方は、日本人からすると受け入れ難いし、生理的な嫌悪をもよおすけれども、アメリカ人の中ではいまでも通用しています。
(つづく)

『希望の資本論』その9

【73ページ】
池上 たとえばムハンマドが生きていた1400年前の戦争の時のルールを、そのまま21世紀の現代に生かそうとする。戦争をする時にムハンマドが何をやったのかとか、あるいはムハンマドが率いる軍団が捕虜を取った時に、捕虜をどうすればいいか。殺す、奴隷にする、身代金で人質交換をする、釈放をする、という四つのやり方を取っていたのを、いまに照らし合わせて、捕虜を取ることは良いことであり、その四つのどれを選択してもかまわないというように解釈する。当時のさまざまな動きを現代にそのまま使うわけです。

【74~75ページ】
佐藤 イスラム原理主義は、共産主義やファシズムと比べた場合、決定的な違いがあるんですよね。生産の哲学がないんです。生産の哲学がなくて、分配の哲学しかない。しかし、飯を食わないと生きてはいけない。だから、どこかから取ってくるというように、常に外部を想定していなければなら
~。資本主義を解析すると、一つは、①「商人資本形式」です。~。次に、②「金貸資本形式」です。~。
近代の資本主義では、③「産業資本形式」といって、労働力と生産手段(機械や原料など)を合わせて、時間をかけて商品をなるべく安く生産し、なるべく高く売る。イスラムでは、共同経営者になってここに入ってしまうことで、利息を取ってはいけないという問題を見えなくする、という形なんですよね。
(つづく)

『希望の資本論』その7

【46ページ】
佐藤 『資本論』を読むべき最大のポイントは何かというと、目には見えないが確実に存在する資本の力を見きわめるということ。資本はお金ではありません。たとえば「AERA」の編集部で働いている時間においては、一人一人の労働力は商品化されている。だから、AERA編集長の言うことには従わないといけないし、「嫌だな、佐藤なんかの話を聞きたくないな」と思っても、編集長命令だと聞かなければいけない。それはその時間の範囲において、労働力が商品化されているからです。

【48~49ページ】
佐藤  。実はマルクスの『資本論』のもう一つのポイントは、どうやって資本主義が出てくるかということで、資本主義とは実は偶然からできている。たとえば地球寒冷化にともなって毛織物市場が拡大し、毛織物の原料である羊毛の需要も増大し、その結果イギリスで囲い込み(エンクロージャー)が起きた。つまりもし地球が寒くならなければ(笑)、羊毛
は必要なかったんです。~。
それとの関係で言うと、自分たちにとっての外部があるかどうかということになってくると思います。資本主義が恐いのは、その運動の中に入ってしまうと、外が見えなくなってしまうことです。会社での自分の出世しか見えなくなってしまうとか、あるいは息子や娘の受験しか見えなくなってしまうとか。こういうふうにして資本主義システムの内部で頑張ることしか考えられなくなってしまう。
(つづく)

『希望の資本論』その6

【40~41ページ】
佐藤 そうすると年収150万円そこそこなら、100円ショップを使っていれば食べていくこともできるし、部屋だって新宿区でも築40年以上になった場合なら、3万円以下で借りられます。しかもトイレ共用の場合にはもっと安くなります。住宅費さえ削れば、実は生きていくだけだったら、そんなに大変ではない。
* ホワイトカラー・エグゼンプション
ホワイトカラーに対して、労働法上の規制を適用免除するというアメリカなどで行われている制度。労働時間ではなく、仕事の成果、能力に応じて評価をするとして、日本でも「高度ブロフエッショナル労働制」という名称で、2015年の通常国会で、政府が労働基準法の改正をめざしている。

【42ページ】
池上 最近、都道府県別による大学進学率が発表になって、進学率が最低の鹿児島県は32.1%、最高の東京都では77.5%と40ポイントの差があり、この20年で最上位と最下位の差は2倍になったそうです。

【44ページ】
池上 それとともに日本も、教育と生涯給与がリンクするアメリカ型のシステムになってきた。これによる社会的なストレスがどうなるかというシュミレーションをきちんとしておかないと、大変なことが起こるかもしれない。
(つづく)
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水元正介

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